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東京地方裁判所 平成7年(行ウ)58号 判決

茨城県東茨城郡小川町大字中延一二〇二番地

原告

日新総業株式会社

右代表者代表取締役

浦聰

茨城県石岡市大字三村二四五一番地二

原告

株式会社筑波学園東

カントリークラブ

右代表者代表取締役

浦聰

東京都田無市南町六丁目一一番一二号

原告

東興不動産株式会社

右代表者代表取締役

浦幸子

東京都杉並区宮前一丁目一九番三号

原告

株式会社東和工務店

右代表者代表取締役

浦聰

東京都杉並区宮前一丁目一九番一四号

原告

株式会社岩瀬桜川

カントリークラブ

右代表者代表取締役

浦聰

東京都田無市南町六丁目一一番一二号

原告

浦聰

右原告ら訴訟代理人弁護士

坂田桂三

伊藤喬紳

飯塚義次

古田利雄

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長 小田泰機

右指定代理人

東亜由美

高田秀子

米長日出男

盛岡哲雄

川口克巳

鈴木孝

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告が関裁(法)平六第一二号をもって平成六年一二月二〇日付けで原告日新総業株式会社に対してした裁決を取り消す。

二  被告が関裁(法)平六第一三号をもって平成六年一二月一〇日付けで原告株式会社筑波学園東カントリークラブに対してした裁決を取り消す。

三  被告が東裁(法諸)平六第一一七号をもって平成六年一二月二二日付けで原告東興不動産株式会社に対してした裁決を取り消す。

四  被告が東裁(法諸)平六第一一八号をもって平成六年一二月二二日付けで原告株式会社東和工務店に対してした裁決を取り消す。

五  被告が東裁(法諸)平六第一一九号をもって平成六年一二月二二日付けで原告株式会社岩瀬桜川カントリークラブに対してした裁決を取り消す。

六  被告が東裁(所)平六第一一六号をもって平成六年一二月二二日付けで原告浦聰に対してした決裁を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告らが、株式会社ジャパンセントラルコロシアム(以下「JCC」という。)のゴルフ場開発事業に出資等の方法で協力し、同社から右協力に対する報酬や株式の買取対価等の金員の支払を受けたとして、当該金額を自らの所得額として別紙2の1ないし6の各申告欄記載のとおり各申告したところ、各課税庁から、当該金額は全て原告浦聰がJCCに売却した株式の対価であり、同人の平成二年分の分離株式等の譲渡所得に該当するなどとして、別紙2の1ないし6の各原処分欄記載のとおり各申告所得額から当該金額等を減額する各更正を受けたので、これを不服として被告に対し審査請求を行ったところ、別紙1のとおりいずれも却下されたため、右各却下裁決の取消しを求めて出訴した事案である。

一  当事者間に争いのない事実等(なお、書証により認定した事実については、適宜書証を掲記する。)

1  原告日新総業株式会社が、平成二年一二月一日から平成三年一一月三〇日までの事業年度分の法人税につき確定申告したところ、水戸税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、課税標準を申告額より一億五〇〇〇万円減額する更正を行った。

2  原告株式会社筑波学園東カントリークラブが、平成二年七月一日から平成三年六月三〇日までの事業年度分の法人税につき確定申告したところ、土浦税務署長は、平成六年一〇月二〇日付けで右原告に対し、課税標準を申告額より二億七九八三万四〇〇〇円減額する更正を行った。

3  原告東興不動産株式会社が、平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度分の法人税、法人臨時特別税及び消費税につき確定申告及び修正申告したところ、東村山税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、法人税に係る課税標準を二億七六〇三万三〇〇〇円、納付すべき税額を一七三三万二〇〇〇円、法人臨時特別税に係る課税標準を一七七五万四〇〇〇円、納付すべき税額を四四万三〇〇〇円、消費税に係る課税標準を二億六二一三万六〇〇〇円、納付すべき税額を一五七万三〇〇〇円それぞれ申告額より減額する更正を行った。

4  原告東興不動産株式会社が、平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度分の法人税につき確定申告したところ、東村山税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、納付すべき税額を申告額より三四二万一〇〇〇円減額する更正を行った。

5  原告株式会社東和工務店が、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度分の法人税及び消費税につき確定申告したところ、荻窪税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、法人税に係る課税標準を六〇〇〇万円、納付すべき税額を二二五〇万円、消費税に係る課税標準を五八二五万二〇〇〇円に、納付すべき税額を一七四万七〇〇〇円それぞれ申告額より減額する更正を行った。

6  原告株式会社東和工務店が、平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度分の法人税、法人臨時特別税及び消費税につき確定申告したところ、荻窪税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、法人税に係る課税標準を六億五五九九万九〇〇〇円、納付すべき税額を四一七三万九〇〇〇円、法人臨時特別税に係る課税標準を三八七三万九〇〇〇円、納付すべき税額を九六万八〇〇〇円、消費税に係る課税標準を三億八八三四万九〇〇〇円、納付すべき税額を一一六五万一〇〇〇円それぞれ申告額より減額する更正を行った。

7  原告株式会社東和工務店が、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度分の法人税及び消費税につき確定申告したところ、荻窪税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、法人税に係る課税標準を二億円、消費税に係る課税標準を一億四四一七万四〇〇〇円、納付すべき税額を五八二万六〇〇〇円それぞれ申告額より減額する更正を行った。

8  原告株式会社岩瀬桜川カントリークラブが、平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度分の法人税及び消費税につき確定申告をしたところ、荻窪税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、法人税に係る課税標準を八〇九〇万六〇〇〇円、消費税に係る課税標準を四億六六〇一万九〇〇〇円、納付すべき税額を一三九八万一〇〇〇円それぞれ申告額より減額する更正を行った。

9  原告浦聰が、平成三年分の所得税につき確定申告したところ、東村山税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、課税標準を二億八三二万八〇〇〇円、納付すべき税額を四一六六万四〇〇〇円それぞれ申告額より減額する更正を行った。

(なお、以上の経緯については、別紙1及び別紙2の1ないし6のとおりである。)

10  原告浦聰が、平成二年分の所得税につき確定申告したところ、東村山税務署長は、平成六年九月三〇日付けで右原告に対し、分離株式等の譲渡所得額を四四億二六五〇万円、納付すべき申告額より八億八五三二万九二〇〇円増額して八億八五九八万一八〇〇円とする更正及び重加算税として三億九八五万五〇〇〇円を賦課する決定(以下両者を併せて「本件増額更正等」という。)をした。(甲二〇号証)

11  原告らは、平成六年一一月二八日に、前記1ないし9の各更正(以下「本件各更正」という。)に対して審査請求をしたが、被告は、本件各更正は原告らの申告における課税標準又は納付すべき税額を減少させるものであるから、原告らにはこれに対して不服申立てをする利益がないとして、別紙1のとおり、原告日新総業株式会社及び同株式会社筑波学園東カントリークラブに対しては同年一二月二〇日付けで、その余の原告らに対しては同月二二日付けで、右各審査請求をいずれも却下する旨の裁決(以下「本件各裁決」という。)をした。

二  争点

本件においては、原告らには本件各更正に対して不服申立てをする利益がないとして原告らの審査請求を却下した被告の本件各裁決が違法か否かが争点になっているところ、この点に関する当事者双方の主張の要旨は、以下のとおりである。

1  原告らの主張

更正について不服申立てをなすには、これについての法律上の利益が必要であるが、更正が公権力たる税務行政の一作用であり、その民主的で公正な執行のためには納税者による不断の監視が要請されること、税務争訟において応訴の負担を強いられるのは国家機関であり、私人の場合と同列に論ずべきではないこと等に徴すれば、右法律上の利益は、極めてゆるやかに広く解すべきである。

したがって、納付すべき税額を減額する更正であっても、他の増額更正と密接な関係にあり、当該処分によって被処分者に間接的な不利益が生じるような場合にも、不服申立ての法律上の利益を認めるべきである。

これを本件についてみるに、本件各更正と本件増額更正等とは、共に、原告浦聰が、JCCに株式を譲渡して得た譲渡所得を、同人の平成三年分の所得や原告らの所得であるように装い、平成二年分の所得金額のうち約四三億円を隠蔽したという誤った事実認定の下になされたものであるから、両者には密接な関係があるというべきである。したがって、本件増額更正等を受けた原告浦聰はもとより、それ以外の原告らも、右事実認定を基準にすれば、原告浦聰に対して不当利得返還債務を負うことになる以上、本件各更正によって間接的にではあるが著しい不利益を被っているものというべきである。

また、申告に係る課税標準の一部又は全部の取消しと、新たな課税要件事実の認定に伴う課税標準の加算とが一度の更正で複合して行われ、その結果として課税標準の中身が入れ替わる場合には、新たに認定された課税要件事実に対応する部分に関する限りは、納税者に不利益な処分であるとして、その取消しを求める利益を認めるべきである。なぜなら、このように解さないと、課税庁において職権による一部減額更正をした後、改めて一部増額更正を段階的に行った場合には、被処分者は不服申立てによって救済され得ることと比べて、権衡を欠くからである。

本件においても、原告株式会社筑波学園東カントリークラブに対する前記一2の更正においては、繰越欠損金控除の否認等によって二億八四一六万五三一四円が、原告東興不動産株式会社に対する前記一3の更正においては、繰越欠損金控除の否認等によって一億八三九六万六一一七円が、原告株式会社東和工務店に対する前記一5の更正においては、完成工事計上もれとして六億円が、原告株式会社岩瀬桜川カントリークラブに対する前記一8の更正においては、繰越欠損金控除の否認によって三億九九〇九万三三八三円が、それぞれ所得金額に加算されているから、これら新たな課税要件事実の認定に対応する部分に関する限りは、原告らに不利益な処分であるとして、原告らにはこれに対する不服申立てを求める法律上の利益があるというべきである。

したがって、原告らの審査請求をいずれも却下した本件各裁決は、原告らの不服申立ての利益に関する判断を誤ったものというほかはないから、その裁決には違法がある。

2  被告の主張

国税通則法七五条は、国税に関する法律に基づく処分に不服がある者は、異議申立て又は審査請求をすることができる旨規定しているが、右「不服がある者」とは、当該処分に対し不服申立てをする法律上の利益を有する者、すなわち、当該処分によって直接自己の権利又は法的権利が侵害されている者をいうものと解される。

そして、更正が不利益処分に当たるか否かは、税額算出過程における個々の項目ごとに金額の増減を対比して判断すべきものではなく、当該更正により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきである。

これを本件各更正についてみるに、本件各更正は、それぞれ原告らの申告した課税標準若しくは納付すべき税額を減少させ、又はこれらを零とする処分であるから、何ら原告らの権利又は法的利益を侵害するものではない。

したがって、原告らは、本件各更正について不服申立てをする法律上の利益を有する者に当たらないから、これを理由に原告らの各審査請求を却下した本件各裁決には、何らの違法もないというべきである。

第三争点に対する判断

一  国税通則法七五条以下の規定に基づく不服申立手続も、国家機関による紛争解決制度である以上、これを利用して税務署長等の処分に対して不服申立てをすることができるのは、当該不服申立てについて紛争解決機関が判断を与えるだけの実際的な価値ないし必要性がある者、すなわち、租税行政処分によって権利又は利益を侵害されたため、その取消しを得る利益を有する者に限られるものというべきである。

しかるに、本件各更正が、原告らの申告した課税標準若しくは納付すべき税額又はその両者を減額する処分であることは当事者間に争いがないところ、かかる処分は原告らの権利又は利益を何ら害するものではなく、かえって原告らに有利な効果をもたらす処分というべきであるから、原告らには本件各更正に対する不服申立ての利益はないものというほかはない。

二  これに対し、原告らは、本件各更正は、それ自体は減額更正であるが、原告浦聰に対する本件増額更正等と事実認定を共通にしているし、右事実認定を基準にすれば原告浦聰以外の原告らも原告浦聰に不当利得返還債務を負うことになるのであるから、本件各更正によって原告らには間接的な不利益が生じるといえ、これを免れるために、原告らに不服申立ての利益を認めるべきである旨主張する。

しかしながら、本件各更正と本件増額更正等とが、各課税庁における本件の背景事情についての共通の事実認定を基礎としてなされた処分であるとしても、原告浦聰は、本件各更正を取り消さなければ本件増額更正等の取消しを求め得ないわけではなく、同人は、本件増額更正等が仮に違法である場合には直接本件増額更正等を対象としてその取消しを求めて出訴することが可能であるから、同人に減額更正に対する不服申立ての利益を認める必要はないものというべきである。

また、申告納税方式に係る租税について税務署長の行う更正は、納税申告書に記載された課税標準等又は税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき等に、その調査により、当該申告者の国に対する納税義務の内容を確定する行為であるにすぎす、右納税義務の前提となる課税要件事実の存在を公権的に確定し、右事実を前提とした申告者相互間の法律関係を確認する効力を有するものではない。したがって、本件においても、原告らは、本件各更正に係る原告ら相互間の法律関係についての各課税庁の事実認定に拘束されるわけではないから、原告浦聰以外の原告らが、本件各更正によって原告浦聰に対する不当利得返還債務を負うことになるわけではないことは明らかである。

したがって、この点に関する原告らの主張は理由がない。

三  さらに、原告らは、本件各更正のうち、原告株式会社東和工務店に対する前記第二の一5の更正等のように、申告に係る課税標準の一部又は全部の取消しと、新たな課税要件事実の認定に伴う課税標準の加算とが一度の更正で行われ、その結果課税標準の中身が入れ替わる場合には、新たに認定された課税要件事実に対応する部分に関する限り、その取消しを求める利益を認めるべきであると主張する。

確かに、課税庁によって減額更正と増額再更正が段階的に行われた場合には、減額更正によって受けた利益のうち、増額再更正によって侵害された部分については、被処分者には不服申立ての利益が認められることになる。

しかしながら、減額及び増額が一つの減額更正で行われた場合にも、申告者は、右減額更正を下回る部分について、当初の申告につき国税通則法二三条一項に規定する更正の請求をすることはなお可能であると解されるところ、それ以上に右減額更正中で新たに認定された課税要件事実に対応する部分について不服申立てをすることを認めれば、かえって、右不服申立てに対する判断と前記更正の請求に対する判断が矛盾抵触するおそれすらあるとも解されるから、減額更正中で新たに認定された課税要件事実に対応する部分について不服申立てをすることを認めることは、その理由も必要もないものというほかはない。

よって、この点に関する原告らの主張も失当である。

四  加えて、原告らは、公権力たる税務行政の公正さや民主性を担保する必要があること、税務争訟では被告は国家機関であることから、更正に対する不服申立ての利益を広く認めるべきであるとも主張する。

しかし、税務行政の民主性の担保なるものは争訟制度の本来的目的ではないし、行政争訟における訴えの利益とは、当該紛争自体について、国家の紛争解決制度を利用して解決するに足るだけの実際的な価値ないし必要性があるかどうかについての判断であるから、右判断において争訟の相手方が国家機関であると否とで差異が生ずべき理由はないものというべきであって、この点に関する原告らの主張も採用することができない。

五  結論

以上のとおりであって、原告らについて本件各更正に対する不服申立ての利益を否定した本件各裁決には違法な点はないことに帰し、原告らの請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田光広 裁判官 岡田幸人 裁判長裁判官秋山壽延は転補につき署名捺印できない。裁判官 竹田光広)

別紙1

1 本件裁決の経緯

〈省略〉

〈省略〉

別紙2-1

2 申告・原処分の内容

(1) 日新総業株式会社

〈省略〉

別紙2-2

(2) 株式会社筑波学園東カントリークラブ

〈省略〉

別紙2-3

(3) 東興不動産株式会社

〈省略〉

別紙2-4

(4) 株式会社東和工務店

〈省略〉

〈省略〉

別紙2-5

(5) 株式会社岩瀬桜川カントリークラブ

〈省略〉

別紙2-6

(6) 浦聰

〈省略〉

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